sin(ωt)とcos(ωt)のLaplace変換

制御システムの設計に役に立つLaplace変換ですが,普段は変換表を見て時間世界とs世界を行ったり来たりするだけです. ここでは表を使わずに$ \sin(\omega t) $と$ \cos(\omega t) $のLaplace変換を行います. 変換をするにあたり知っておきたい予備知識を紹介してから,実際に変換をし,その結果を逆変換し,その結果が変換表と一致するか検討します. 予備知識といってもある程度の抽象化はしましたが,これくらいならば自分の知識で計算している感覚に陥る程度だと思っています. 細かな話や数学的厳密性を重視するよりも,エンジニアたちにとってちょっとした寄り道になるよう構成しました. 寄り道です. そうなんだ程度に眺めましょう.

$$ \begin{aligned} \mathrm{e}^0 &= 1 \\[1em] \lim_{x \to -\infty} \mathrm{e}^x &= 0 \end{aligned} $$

$ \mathrm{e} $はネイピア数です. $ \mathrm{e}^x $のグラフを描くと分かりますが$ x=0 $で1となります. $ x $を$ +\infty $まで持って行くとプラス無限大へと発散します. $ x $を$ -\infty $へ持って行けば,その値は0へ収束します.


$$ \int_a^b f(x) dx = F(x) \bigg|_{x=a}^b = F(b) - F(a) $$

定積分とは区間$ [a, b] $における函数$ f(x) $の面積を求めることです. 原始函数 (積分後の函数) $ F(x) $の上限値$ b $から下限値$ a $を減じた値が解です.


$$ \begin{aligned} (\alpha + \beta)(\alpha - \beta) &= \alpha^2 - \beta^2 \\[1em] (\gamma + i \delta)(\gamma - i \delta) &= \gamma^2 + \delta^2 \end{aligned} $$

プラスとマイナスの積は2乗マイナス2乗,と言えば何となく伝わるでしょうか. 分配法則に従って括弧を外すと右辺のように2乗の差だけが残ります. 虚数$ i $を後ろの値に付けると結果の右辺が2乗プラス2乗となることに注目しましょう.


$$ \begin{aligned} \mathrm{e}^{i \theta} &= \cos \theta + i \sin \theta \\[1em] \mathrm{e}^{- i \theta} &= \cos \theta - i \sin \theta \\[1em] - \mathrm{e}^{i \theta} &= - \cos \theta - i \sin \theta \\[1em] - \mathrm{e}^{- i \theta} &= - \cos \theta + i \sin \theta \end{aligned} $$

美しい形で有名なEulerの公式です. それぞれ取り得る符号のパターンを書き出しました.


$$ \begin{aligned} \sin \theta &= \frac{\mathrm{e}^{i \theta} - \mathrm{e}^{- i \theta}}{2 i} \\[1em] \cos \theta &= \frac{\mathrm{e}^{i \theta} + \mathrm{e}^{- i \theta}}{2} \end{aligned} $$

Eulerの公式を上手く使うことで$ \sin $と$ \cos $をネイピア数の和として表すことが出来ます. なぜ$ \sin $と$ \cos $がこんな式で表せるのか,Eulerの公式も含めた土台となる知識無しでは直ぐに理解できない等式なので,今のうちに慣れてしまいましょう.


$$ \begin{aligned} \mathcal{L} [ f(t) ] ( s ) &= \int_0^\infty \mathrm{e}^{-st} f(t) dt \\[1.5em] \mathcal{L}^{-1} [ F(s) ] ( t ) &= \frac{1}{2 \pi i} \lim_{\lambda \to \infty} \int_{\sigma-i \lambda}^{\sigma+i \lambda} \mathrm{e}^{st} F(s) ds \end{aligned} $$

こちらが本命,Laplace変換を実現する式です. 時間$ t $がパラメタの函数$ f(t) $を$ s $領域の函数$ F(s) $へと変換します. 2行目が逆変換の式になります. 細かい話は気にせずにこんな形をしているんだな,という気持ちで覚えてしまいましょう. ちなみに,逆変換式の積分を特にBromwich積分と呼びます.


$$ \begin{aligned} \frac{1}{2 \pi i} \lim_{\lambda \to \infty} \int_{\sigma-i \lambda}^{\sigma+i \lambda} F(s)' ds &= Res(F(s)', c) \\[1em] &= \lim_{s \to c} (s-c) F(s)' \end{aligned} $$

逆変換におけるBromwich積分は結局のところ何をやっているのか,と言われれば留数(Residue)を求めています. 右辺の2行目を使えば,位数1の極$ c $を持つ函数$ F(s)' $の留数を求めることが出来ます. 極とは函数の分母がゼロとなる$ s $の値です. 極が複数ある場合,それぞれの留数を求めてからそれら結果の総和を取りましょう. 留数が求まれば逆変換は完了です. "残り物(Residue)には福がある"とはこのことでしょう.


$$ \begin{aligned} \mathcal{L} [ \sin ( \omega t ) ] ( s ) &= \int_0^\infty \mathrm{e}^{-st} \sin ( \omega t ) dt \\[1.5em] &= \frac{1}{2 i} \int_0^\infty \left( \mathrm{e}^{-t(s-i \omega)} - \mathrm{e}^{-t(s+i \omega)} \right) dt \\[1.5em] &= \frac{1}{2 i} \left( -\frac{\mathrm{e}^{-t(s-i \omega)}}{s-i \omega} + \frac{\mathrm{e}^{-t(s+i \omega)}}{s+i \omega} \right) \bigg|_{t=0}^\infty \\[1.5em] &= \frac{1}{2 i (s^2+\omega^2)} \left( - (s+i \omega) \mathrm{e}^{-t(s-i \omega)} + (s-i \omega) \mathrm{e}^{-t(s+i \omega)} \right) \bigg|_{t=0}^\infty \\[1.5em] &= \frac{1}{2 i (s^2+\omega^2)} \left( s+i \omega -s+i \omega \right) \\[1.5em] &= \frac{\omega}{s^2 + \omega^2} \end{aligned} $$

$ \sin (\omega t) $のLaplace変換です. 2行目で$ \sin $をネイピア数の和へと置き換えました. この時,指数を$ -t $でまとめることがポイントです. $ t $が$ \infty $になっても結果は$ 0 $へ収束するからです. 積分をした後は分母をまとめて整理します. 最後に定積分をキメれば変換は完了です.


$$ \begin{aligned} \mathcal{L}^{-1} [ \frac{\omega}{s^2 + \omega^2} ] ( t ) &= \frac{1}{2 \pi i} \lim_{\lambda \to \infty} \int_{\sigma-i \lambda}^{\sigma+i \lambda} \mathrm{e}^{st} \frac{\omega}{s^2 + \omega^2} ds \\[1.5em] &= Res( \frac{\omega}{s^2 + \omega^2} \mathrm{e}^{st}, \pm i \omega ) \\[1.5em] &= \lim_{s \to i \omega} (s - i \omega) \frac{\omega}{s^2 + \omega^2} \mathrm{e}^{st} + \lim_{s \to -i \omega} (s + i \omega) \frac{\omega}{s^2 + \omega^2} \mathrm{e}^{st} \\[1.5em] &= \lim_{s \to i \omega} \frac{\omega}{s + i \omega} \mathrm{e}^{st} + \lim_{s \to -i \omega} \frac{\omega}{s - i \omega} \mathrm{e}^{st} \\[1.5em] &= \frac{\omega}{2 i \omega} ( \mathrm{e}^{i \omega t} - \mathrm{e}^{-i \omega t} ) \\[1.5em] &= \sin( \omega t) \end{aligned} $$

今度は逆変換をして$ \sin $へ戻せるか試します. ちゃんとBromwich積分まで書きましたが,いきなり$ Res $から始めれば紙面節約になります. 極は函数の分母がゼロとなる$ s $なので$ \pm i \omega $です. プラスとマイナス2つの極があるので,それぞれの留数を求めてから足し合わせます. 3から4行目では"プラスとマイナスの積は2乗マイナス2乗になる"ことを利用して約分しました. 後はそれぞれのsをそれぞれの極へと$ \lim $に従って持って行けば見覚えのあるネイピア数の和,すなわち$ \sin $が現れます. 見事,時間の世界へ戻って来られました.


$$ \begin{aligned} \mathcal{L} [ \cos ( \omega t ) ] ( s ) &= \int_0^\infty \mathrm{e}^{-st} \cos ( \omega t ) dt \\[1.5em] &= \frac{1}{2} \int_0^\infty \left( \mathrm{e}^{-t(s-i \omega)} + \mathrm{e}^{-t(s+i \omega)} \right) dt \\[1.5em] &= \frac{1}{2} \left( -\frac{\mathrm{e}^{-t(s-i \omega)}}{s-i \omega} - \frac{\mathrm{e}^{-t(s+i \omega)}}{s+i \omega} \right) \bigg|_{t=0}^\infty \\[1.5em] &= \frac{1}{2 (s^2+\omega^2)} \left( - (s+i \omega) \mathrm{e}^{-t(s-i \omega)} - (s-i \omega) \mathrm{e}^{-t(s+i \omega)} \right) \bigg|_{t=0}^\infty \\[1.5em] &= \frac{1}{2 (s^2+\omega^2)} \left( s+i \omega +s-i \omega \right) \\[1.5em] &= \frac{s}{s^2 + \omega^2} \end{aligned} $$

$ \cos $の変換です. やっていることは$ \sin $と同じで,最初にネイピア数の和へと置き換えます. 例によって指数を$ -t $でまとめた後に積分をして,分母をまとめ,定積分をキメます. $ \sin $と違いネイピア数の和がプラスであるため,変換後の分子には$ s $が残ります.


$$ \begin{aligned} \mathcal{L}^{-1} [ \frac{s}{s^2 + \omega^2} ] ( t ) &= \frac{1}{2 \pi i} \lim_{\lambda \to \infty} \int_{\sigma-i \lambda}^{\sigma+i \lambda} \mathrm{e}^{st} \frac{s}{s^2 + \omega^2} ds \\[1.5em] &= Res( \frac{s}{s^2 + \omega^2} \mathrm{e}^{st}, \pm i \omega ) \\[1.5em] &= \lim_{s \to i \omega} (s - i \omega) \frac{s}{s^2 + \omega^2} \mathrm{e}^{st} + \lim_{s \to -i \omega} (s + i \omega) \frac{s}{s^2 + \omega^2} \mathrm{e}^{st} \\[1.5em] &= \lim_{s \to i \omega} \frac{s}{s + i \omega} \mathrm{e}^{st} + \lim_{s \to -i \omega} \frac{s}{s - i \omega} \mathrm{e}^{st} \\[1.5em] &= \frac{i \omega}{2 i \omega} ( \mathrm{e}^{i \omega t} + \mathrm{e}^{-i \omega t} ) \\[1.5em] &= \cos( \omega t) \end{aligned} $$

逆変換も$ \sin $と同じ手順を踏んでいます. まずは極を求めます. 函数の分母は$ \sin $の時と同じなので極も同じく$ \pm i \omega $です. 極が分かれば留数が求まります. 留数が求まれば逆変換完了です. 確かに$ \cos $へと戻りました. めでたし.


上の結果から,確かに変換表と同じ結果を得られました. Bromwich積分やら留数定理やらと気になり始めたらキリがないほど複素解析の知識がふんだんに盛り込まれています(とは言ってもそれでも解析学全体から見ればまだまだ氷山の一角に過ぎませんが). Laplace変換も元を辿ればFourier変換です. Fourier変換を拡張して汎用化して演算子へと進化させた結果がLaplace変換です. 源流を辿れば理解が深まります. 気になっちゃった方はFourier変換を調べてみましょう. 変換式を使えば$ \sin, \cos $以外の変換ももちろん出来るので,好奇心のある方はぜひ計算して変換表を自作してみましょう.

2086322877745015122 http://www.storange.jp/2015/08/sintcostlaplace.html http://www.storange.jp/2015/08/sintcostlaplace.html sin(ωt)とcos(ωt)のLaplace変換 2015-08-08T09:41:00+09:00 http://www.storange.jp/2015/08/sintcostlaplace.html Hideyuki Tabata 200 200 72 72