100%ホームメイド”プリント基板”! (本編)

概要

ここでは、感光式プリント基盤の製作についてを、余すことなく記録する。プリント基板とは、銅箔の配線がすでにプリントされている基盤のことだ。つまりパーツを決まった位置にハンダ付けするだけで回路が組み上がるのだ。これを使えば面倒な配線作業をしなくて済む。感光式とは、まるで写真を現像するような感覚で自作プリント基板を作れる。この作業に特殊な機材はほとんど必要なく、自宅だろうが洞窟だろうが職場だろうが学校だろうが、暗くできて自由に明かりが点けられるような場所であればどこであろうと慣れてしまえば誰でも簡単に作成できる。これは電子回路用の基板に限らず、好きな写真を感光基板にプリントすることも出来る。銅箔の写真を部屋に飾っておけば友達の目を惹くこと間違いない!

目次

  1. プリント基板を作るために準備する物いろいろ
  2. プリントしたい写真(パターン)を印刷する
  3. 光(紫外線)に当てて感光させる
  4. 感光した基板を現像する
  5. 余分な銅箔を剥がす
  6. 穴を開ける
  7. 終わりに
感光基板にパターンをプリントする仕組みは次の通り。まず、感光基盤のプリントしたいパターンに光が当たらないように覆いをする。基盤に光があたると、光があたった部分の表面保護膜が現像液で剥がれ落ちるようになる。すると保護膜の下にある銅箔がむき出しになる。光の当たらなかった部分だけ保護膜が残っている状態だ。この状態で、金属溶かし液(エッチング液)に漬けると、銅箔むき出し部分が溶けて、保護膜の残っている部分の銅箔だけが残る。この残った銅箔がプリントしたいパターンになるわけだ。あとは表面の保護膜すべてをアルコールで拭き取れば、銅箔のパターンがキレイに現れる。こんな仕組み。今回はサンハヤトさん全面協力である(下の写真を参照)。ありがたや。
左から感光基板現像液エッチング液(金属溶かし)。
後はこれら液体を入れるためのタッパが必要。ということで、準備するものをご紹介。

準備するもの

  • インクジェットフィルム
  • 粘着テープ
  • PCとプリンタ
  • フォトフレーム
  • 感光基板
  • エッチング液
  • 現像液
  • アルコール(除光液でもOK、しかしお酒類はNG)
  • タッパ2つ(現像液用とエッチング液用)
  • 割り箸
  • ビニール手袋
  • タッパを湯煎できるサイズの鍋
  • スタンド蛍光灯
  • 時間を計る道具
  • 鍋を加熱できる何か
  • 温度計
  • キッチンペーパ
  • 暗くできて自由に明かりを点けられる場所
  • φ1.0mmのドリル
  • 卓上ボール盤(電動ドリルでもOK)
  • その他ここに載せ忘れた物

パターンを印刷する

今回私が作ったのは、電子工作のためのプリント基板である。3つのパターンを1枚の感光基板にプリントした。省スペースな回路基盤を作りたい、オリジナリティあふれるパターンを作るんだ、銅箔製のクールな写真をプリントするぞ。どんな目的を持っているにしろ、これを一度作ると病みつきになるだらう(プリントにつかう薬品が原因で病みつきになるわけではないはずである)。印刷用紙には、サンハヤトのインクジェットフィルムを使用。このフィルムならば綺麗に印刷できるはず。
印刷するときはフィルム用紙の向きに注意!

お世話になったSoftwareたち

Fritzingで回路を設計しPDFとして出力。もしPDFが複数あるのならPDFSAMで1つのPDFへと結合する。プリンタで印刷、の流れ。Fritzingは、 "File" → "Export" → "For Production" → "Etchable (PDF...)" を選択すると基盤表裏それぞれの銅箔・シルクパターンを非反転・反転したPDFとして出力してくれる。Fritzingの場合、基盤を表(部品の乗っかる側)から見た構図で回路設計していたのならば、非反転の裏面パターンPDFを印刷すると良い。
ポイントはパターンの部分だけ光が当たらないようにすることなので、プリンタの用紙設定を”写真用紙”に設定したり、“キレイ印刷”や“白黒印刷”にしたりと、ムラなく綺麗に印刷できるような工夫をするとGOOD。

FritzingプチTip

GNDにしたい素子の足で右クリック。Set Ground Fill Seedをクリック。
必要な素子をすべて配置できたら、メニューバーの "Routing" → "Ground Fill" → "Ground Fill" を選択。
するとプリント基板上の余った部分全てがGND用のパターンで埋まる!こうしておけば、ケースに接地する時にも便利だし、LEDや入力端子なんかのGNDを接続しやすくなる。

感光させる

感光基板は紫外線に反応する。感光専用の照明器具が販売されているが、今回は自宅にあった蛍光灯を使用。今回試して分かったことは蛍光灯でも十分きれいに感光できるということ。加えて、一回目は捨てるつもりで挑んで、失敗を糧にすることが大切だということ。

まだ感光基板は開封しない。

感光基板にパターンを被せる一番良い方法はフォトフレームを使う方法。フォトフレームのガラス面にプリントしたいパターンを粘着テープで貼り付ける。このときのフィルムはインクのついている面を上に向けると良い。フィルムの上に重ねるように感光基板を置く。あとはフォトフレームの背面カバーを戻して光を当てる。
テープで固定
感光するときにはこんな状況になる(感光基板の裏面は緑色)
現像作業に欠かせないのがレッドライト!フィルムカメラで撮った写真を現像したことのある人なら分かってくれるはずだ。感光基板は赤色の光にほとんど反応しない。繰り返しになるが、感光基板を袋から出してパターンの上に重ねるまでは、部屋をできる限り暗くして赤色のライトを点けて作業する。窓を閉めきってカーテンを閉め、部屋の明かりを全て消したら、赤色のLEDを灯す。
LEDでなくても赤い光ならばなんでも良い
さぁ部屋が赤くなったら感光基板の袋を開けよう!基盤には表裏がある。表にはNという文字が印刷されていると思われる(サンハヤトの場合)。裏面は緑色ぽくテカっている。この裏面を感光させる。赤い光の中、フォトフレームに固定されたパターンの上に重なるように感光基板を置くのだが、このとき基盤の裏面がパターンの印刷されたフィルムに触れ、基盤の裏面とフィルムのインク面が密着するようにする。フォトフレームのカバーを戻して裏返し、蛍光灯スタンドの下へ移動。蛍光灯はフォトフレームと水平になるようにほぼ真上に設置すると良い。高さは20~30cmほど離した位置がベスト。ちなみに私の蛍光灯は27Wの卓上用。この状態でだいたい8分間ほど光に当てる。蛍光灯のスイッチを入れタイマーやらiPhoneやらで時間を計ろう。
8分経過したら蛍光灯を消灯。すぐに現像しよう!

と言ってもまだ現像するための準備が済んでいないよ!と思った方はどうかご安心を。フォトフレームを裏返せば感光基板に光が当たるのを防いでくれるし、またサンハヤトさんのWebサイトが言うには、感光後の感光面はあまり変化しないのだとか。このへんの仕組みはよく分からんが、とにかく現像するための準備をする時間は十分にあるということだ。

基板を現像する

上の写真は、現像中の様子。だんだんと感光した部分の保護膜が剥げてゆく様子が分かるだらう。現像に使う”現像液”と、この後に使う”金属溶かし液=エッチング液”は耐熱性のタッパに入れて使うと良い。現像液もエッチング液も、液温が高いほうが能力が上がるからだ。タッパに入れておけばそのまま湯煎できる。使い終わった後の保管もフタをするだけだからとっても簡単!
Ziplocは素晴らしく役にたってくれた
ビニール手袋を装着!

現像液の温度はだいたい25~30℃が良い。液温が高くなりすぎると劣化するかもしれないので注意。液温が最適な温度になったら、感光したての基盤をそこへ浸そう。そのまま放置しておいても現像完了しちゃうのだが、時々タッパを揺らして液の中で基盤を動かしてあげたほうが時間が節約できる上、現像し過ぎるまえに気づける確率が高くなる。現像しすぎると、完成後の仕上がりが残念になる。特に細かな部分(ディテール)が消え失せてしまう。逆に現像が足りないと、銅箔として残って欲しいパターン以外の銅箔も残ってしまう。どちらも美味しくない状況だが、どちらかと言えば後者の方になった方が良い。なぜならもう一度現像液に浸せば助かるかもしれないからだ。いわゆるセカンドチャンス。
現像液の液温。これくらいの時がちょうど良い。
ちなみにこの現像液はアルカリ性のため人体に対し有害である。作業場所の換気をしよう。できることならおしゃべり好きの人でなくとも鼻と口を覆えるマスク、目を保護できるメガネを装着すると良い。ちなみにコンタクトレンズはギリギリでもなくアウト。目の保護には不向きであるから注意。
この写真は上手く行った時のもの(ここまで来るのに3枚の基盤たちが犠牲となった…)
時々液から引き上げて現像の進み具合を確認。上の写真のようにパターンがクッキリと浮き上がったら大成功。パターン以外のところに緑色の保護膜が少しでも残っていたらもう少し現像が必要だ。もしハッキリクッキリとしたパターンが浮かんで来なかったら、それは感光不足かし過ぎかであらう。現像に成功したらすぐさま水道水で現像液を洗い流そう。
銅箔の輝きが美しいのは現像に成功した証!
キッチンペーパで余分な水を拭き取り、いざ銅箔剥がしへ!

銅箔を剥がす

ドス黒い液体がエッチング液
体に悪い薬品だし、いろんな物を汚すので扱い注意。

現像できた基盤を液温40℃くらいのエッチング液へ“ドボン”する工程。エッチング液は40℃が適温なのだが45℃を超えると危ないらしいので温め過ぎ厳禁。こいつもアルカリ性。しかもあらゆる金属を溶かしてしまうAlwaysハングリーな奴なので取り扱いには要注意。さらに面倒な事に、プラスチックやガラスなんかに付着すると、その部分に黒いシミが出来上がってしまうから、気の抜けないやつだ。
液温管理に厳しい私は40℃ジャストでお届けいたします
お風呂の水温と同じ40℃ほどになったら、現像したての基盤を浸そう。こちらは現像液とは違い色が濃いので、時々液をどかして基盤の様子をチェックしないと溶けすぎを見過ごしてしまう可能性が増す。ただ、時々液の中で基盤を動かしてあげたほうが、現像液と同じく、早く仕上がる。
液温管理も怠らぬよう
写真のように基盤のオモテ面が透けて見えるようになったら液から取り出そう
液から取り出すときは割り箸を使おう。キッチンペーパで液が垂れるのを防ぎつつ、基盤に残っている液をキレイに拭き取る。
いいね!
クッキリ綺麗にプリントできたパターン。文字のような細かな部分までキレイにプリントできていて嬉しい。
上の写真のようにはっきりした模様が浮かび上がったのなら大成功だ!
完成した基盤と元となったフィルムを見比べてビックリ!
そう、我々は今ものすごい精度で金属加工をしてしまったのだ。

アルコールか、もしくは除光液をキッチンペーパに染み込ませ、それで基盤を磨いてあげよう。抵抗成分を限りなく0へ近づき、導電率は最高潮へと達する。
さっとひと拭きでこんなにキレイ!
さぁ、感動の瞬間がやってきた。プリント基板の完成である!!! 錆びないように機械用オイルを垂らしてみても良いかもしれない。さて、銅箔製のクールな写真を求めていた方、これにて完成。部屋に飾って友達に自慢しよう。さぞ話の弾むことだらう… 電子工作用のプリント基板を求めていた人はもう一歩。最後のステップ“穴あけ”が待っている。

穴を開ける

プリント基板には部品を通すための穴が必要。φ0.7~1.0mmのドリルが良い。ポイントは、基盤に対しドリルをなるべく垂直に下ろすこと。下手な穴あけをすると銅箔が剥がれてしまう。ここで味わう失敗からは多くを学べるが、あえて失敗はススメない。
プリント基板完成!!!

嬉しい限りである

終わりに…

以上がプリント基板を自作する方法だ!完成した余韻に十分浸ったら、次のステージとなる“ハンダ付け”へと進もう!!

残った液はどうすれば良いか?

現像液は基盤15~20枚、エッチング液はだいたい3枚くらい液交換せずに基盤を加工できる(100mm x 150mmサイズ片面基盤の場合)。もし、現像に時間がかかったり、銅箔の溶けが悪くなったりしていたら交換時だらう。

液の処分方法はそれぞれ違う

現像液とエッチング液の処分方法は次の通り。
  • 現像液は食酢を少しづつ混ぜて中和させる。中和中に浮かんでくる細かな浮遊物はろ紙でろ過して可燃ゴミへ。残った液は下水道へ流して処分しよう。
  • エッチング液は付属する廃液処理剤を使用。これを混ぜることでエッチング液をコンクリート状にする。細かな作業は付属の説明書を読むと良い。固まったエッチング液は地方自治体の定める処分方法にて処分しよう。
5316456083702996025 https://www.storange.jp/2012/11/100_26.html https://www.storange.jp/2012/11/100_26.html 100%ホームメイド”プリント基板”! (本編) 2012-11-26T22:22:00+09:00 https://www.storange.jp/2012/11/100_26.html Hideyuki Tabata 200 200 72 72